日本人の食と病いについて

はじめに

 「美味しいものをお腹いっぱい食べたい!」「食べることが唯一の楽しみ」と感じている方や、四六時中「何を食べようかな?」と考えている方等、日々、食に翻弄されている方は多いのではないでしょうか?食いしん坊の私も例外ではありません。
 「食べ物」は人間の生命と活動を維持するために必要不可欠なもので、不足すれば栄養失調や飢餓に陥るし、飽食すれば健康を損なうことになります。本来食とは、「生きるために食べる」というように手段であったはずが、「食べるために生きる」という目的へ変わってきてはいないでしょうか?
 また戦前の「米・みそ汁・漬物」型の食生活から、戦後の洋風化・欧米化された「パン・牛乳・畜産物」型の食生活への変化が、日本人の疾病に大きな変化をもたらしたと考えられます。近年、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満等の生活習慣病や花粉症・アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患が増加し、死亡原因は昭和56年以降、悪性新生物(がん)がトップを占め続けています。
 当診療所では経絡治療や漢方生薬による治療だけでなく生活指導も行っており、特に重点を置いているのが飲水(1日2〜2.5リットル)と食事指導(白米と野菜を中心にして、動物性たんぱく質や乳製品、甘い物は減じる、ないしは禁じる)です。飲水と食べ方が如何に健康状態に関わっているか、目の前の患者さんが教えて下さいますし、自分でも体験して実感を強めています。
 以前の私は水を飲む習慣はなく、牛乳をゴクゴク飲み、眠気覚ましにコーヒーを4〜5杯飲んでいました。便秘を解消しようと玄米やヨーグルトを毎日食べ、お昼は肉や魚でボリューム満点の日替わり弁当。疲労回復と言いながら医局で毎日甘いお菓子をつまみ、インスタント食品やレトルト食品、コンビニ弁当、菓子パン等もよく食べていました。外食でもラーメン、焼肉、揚げ物等何でも好き嫌いなく、残さず食べていました。定期的な運動習慣も無く、今思えばかなり不健康な生活でした。
 しかし当診療所に勤めてから所長の、「患者さんに生活指導をするには、まず自分で実践!」という方針に逆らえず、水を飲み始め、食生活を徐々に変え、歩いて通勤するようにしたところ、次第に体が軽くなり、体調が良くなってきました。そうなると、今まで大好きだった物でも、たまに食べると具合が悪くなり(お菓子・果物→倦怠感、肉→口内炎、パン・あんこ→便秘等)、体がその食べ物を受け付けていないと感じて、それらを避けるようになってきました。
 このように、日々の生活や診療を通して、食が健康や疾病に大きく関係していることを痛感しています。このコーナーでは、私たち日本人の食と病に関して、皆さんの健康に少しでも役立つような情報を提供していきたいと思います。

(記:宮下)

① 甘い物(その1)

 前回、皆様の健康に役立つ情報を提供していきます!と宣言して早8ヶ月・・・。決して忘れていた訳ではありません。それどころか日々の診療の中で、健康になるためには、所長の説の通り“飲水”と“食べ方”が重要であると、ますます痛感していました。

 中でも、患者さんの症状の良し悪しに強い影響力を及ぼしていると思われるものが、“甘い物”です。お菓子や料理に使う砂糖だけでなく、果物の果糖もです。毎日のように食べていたお菓子や果物を徐々に減らしていくと(ゼロにできれば一番いいのですが)、患者さんを悩ましていた色々な症状が良くなっていく事実を経験しています。特に、アレルギー症状(花粉症、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎等)や疼痛性疾患(神経痛や関節痛)、耳疾患(耳鳴り、難聴、めまい等)を患っている場合に顕著です。お菓子や果物を減らす(やめる)と具合がよくなり、油断して食べると症状がぶり返したり悪化したりします。それに気がついた患者さんは、甘い物を手放すことができ、調子がよくなっていきます。なかなか懲りない方もいますが・・・。

 そんな訳で、まずは“甘い物”の害について情報提供したいと思っていたのですが、根拠となる文献的考察やデータを提示しようとしても、ほとんどないのです。それどころか、砂糖の腸管免疫系、全身免疫系に対する効果を調査している戸井田敏彦らの報告で、砂糖にはアレルギー性疾患に対する抑制効果、関節炎などの炎症に対する軽減効果のあることが示唆されたとあるのです(平成15年度砂糖に関する学術調査報告)。砂糖が健康増進に効果があるとは断言できないものの、砂糖の摂取を勧めているようなもので、日々の診療で経験していることと全く逆の報告なのです。

 もともと日本には砂糖の原料となるサトウキビはなく、17世紀に琉球王国(現在の沖縄県)での栽培が始まりで、その後江戸時代に8代将軍徳川吉宗が琉球からサトウキビを取り寄せ、国内での栽培を奨励したとあります。縄文時代から始まった稲作・米文化とは歴史が違い過ぎます。先祖達の食していない砂糖を日本人が摂り続けたらどうなることか・・・。

 本当に皆さんが健康になるような情報を提供するために、引き続き文献等を調べてみます。でもとにかく、アレルギー症状や痛み、耳疾患でお困りの方は、試しに甘い物を手放してみて下さい。きっと効果を実感できますから。

追記:日本人の食と病いの関係について、厚生労働省の資料を基にグラフを作ってみました。
 「食」の指標としては「国民健康・栄養調査」から、①米類 ②小麦類 ③いも類 ④砂糖類  ⑤油脂類 ⑥豆類 ⑦果実類 ⑧野菜類 ⑨海藻類 ⑩魚介類 ⑪肉類 ⑫卵類 ⑬乳・乳製品の1人1日当たりの摂取量の年次推移(昭和21年〜平成20年)を調べました。
 「病い」の指標としては「患者調査」から、①感染症及び寄生虫症 ②新生物(がん) ③糖尿病 ④血液及び造血器の疾患 ⑤精神及び行動の障害(統合失調症、躁うつ病等) ⑥神経系及び感覚器の疾患 ⑦循環器系の疾患(高血圧性疾患、虚血性疾患、脳血管疾患等) ⑧呼吸器系の疾患 ⑨消化器系の疾患(歯及び歯の支持組織の疾患、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍、胃炎及び十二指腸炎、肝疾患等) ⑩筋骨格系及び結合組織の疾患(関節リウマチ、脊柱障害、関節症等)の受療率(人口10万対、入院・外来の総数)の年次推移(昭和30年〜平成20年)を調べました。
 その結果、右肩上がりに増加しているのが幾つかあり、食品では“肉類”と“乳・乳製品”、受療率では“新生物(がん)”と“糖尿病”、“精神及び行動の障害”、“高血圧性疾患”でした。戦後の日本人の食の変化が、疾病構造に影響を及ぼしている裏付けになりそうです。
 また、グラフを細かく見ると、“糖尿病”と“高血圧”の受療率が1997年(平成9年)頃から減少〜横ばいになっていることが分かります。どちらもいわゆる生活習慣病ですが、ちょうど1996年(平成8年)に厚生省から、それまで加齢によって発症しやすいと考えられていた成人病に対して生活習慣病の概念が提案されたことに関係がありそうです。その後も、2000年(平成12年)には国民健康づくり運動として健康日本21が計画され、2002年(平成14年)には健康増進法が成立、2005年(平成17年)にはメタボリックシンドロームの概念が提案され、2008年(平成20年)からは生活習慣病に着目した、特定健診・保健指導が「義務化」されました。それまでの疾病の2次予防(早期発見・早期治療)から、1次予防(健康増進・栄養改善)が重要視される時代となったのです。こうした国の健康対策が功を奏して、国民の健康・病いに対する意識が変わり、“糖尿病”や“高血圧”といった生活習慣病が少しだけ改善してきたと言えるのではないでしょうか?
 診療所でいつも言っていますが、病いを改善するためには、食を始めとした生活習慣の見直しが大事なのです。


食品群別摂取量の年次推移(全国1人1日当たり:g)

  資料:厚生労働省「国民健康・栄養調査」(昭和21年〜平成20年)

グラフ肉



※2001年(平成13年)より食品の分類や、摂取量の算出方法が一部変更されたので、それ以前との比較は注意が必要。上記グラフでは、「米類」は調味を加味した数量となり、米は「めし」・「かゆ」などで算出しているので、従来の摂取量より多く表示されている。


受療率(入院・外来の総数)の年次推移

  資料:厚生労働省「患者調査」(昭和30年〜平成20年)




(記:宮下)

食べ過ぎ注意報!!

 年の瀬も押し迫り、この時期は忘年会にクリスマス、年越し、お正月、新年会とイベント続きで、多くの国民が普段より食べ過ぎて、体重が増加するのではないでしょうか?
 そういう私も昨日は診療所の忘年会で、やや二日酔いと胃もたれの状態でこれを書いています。
 日々診療所で患者さんに、「食べ方が大事」と伝えていますが、この時期だからこそ緊急に“食べ過ぎ注意報”を発令します。

食べ過ぎ注意報
食べ過ぎ、過栄養、肥満は免疫力を低下させ、寿命を縮めますので、皆さん御注意を!!

 栄養不良により免疫機能が低下し、感染症等にかかりやすくなることはよく知られていますが、過栄養もまた免疫機能に影響を及ぼすことが明らかになってきています。
 昔から「腹八分目に医者いらず」と言われていますが、それを裏付ける研究・報告がちゃんとあるのです。ラットやマウスの実験で、食べたいだけ食べさせるよりエサの量を50〜60%に制限した方が寿命が延びるとか、米国の20年間に及ぶ調査で、カロリーを30%制限して飼育したサルは、普通のエサを与えたサルに比べて明らかに若々しく、糖尿病や癌、心臓疾患、脳萎縮等の病気の発症と死亡率が低かった、という報告があります。また、アンチエイジング医学の最新分野では、“カロリス”(=カロリーリストリクション、カロリー制限)という言葉がもてはやされており、カロリーを通常必要とされている7割ぐらいに制限すると、長寿遺伝子である“サーチュイン”が活性化する、と報告されています。
 その他にも、肥満者や肥満モデル動物は、免疫に関係するT細胞の数が減り反応も低下する、肥満者は免疫力が低下して、癌や感染症による死亡率が高くなる、といった報告もあります。
 また巷ではスイーツ流行りですが、砂糖の摂取が免疫に関係する白血球の働きを低下させる、という動物実験の報告もあるのです。
 美味しい物、好物をお腹いっぱい食べ続けて早死にするか、腹七〜八分目の食生活を心掛けて、健康で長生きするか、皆さんはどちらを選びますか?

参考文献


(記:宮下)


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